静岡地方裁判所 昭和63年(わ)246号 判決 1989年9月18日
本店所在地
静岡市国吉田五一八番地
大万紙業株式会社
(右代表者代表取締役 塚本次郎)
本籍・住居
静岡市聖一色六五五番地
会社役員
塚本次郎
大正一一年三月六日生
右大万紙業株式会社及び塚本次郎に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官和田英一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人大万紙業株式会社を罰金一〇〇〇万円に処する。
二 被告人塚本次郎を懲役一〇月に処する。
同被告人に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人大万紙業株式会社(以下被告会社という)は、肩書地に本店を置き、紙器の製造及び販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人塚本次郎は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、被告人塚本次郎は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、副産物売上及び期末たな卸しのそれぞれ一部を除外するとともに、仕入れを水増しし、架空期末賞与等を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和六〇年二月一日から昭和六一年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億六九〇六万九五三〇円であつたのにかかわらず、昭和六一年三月三一日、同市追手町一〇番八八号の所轄静岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五五四一万四七〇一円で、これに対する法人税額が六五三九万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億一四六〇万八一〇〇円と右申告税額との差額四九二一万一七〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告会社代表者兼被告人塚本次郎の当公判廷における供述
一 被告会社代表者兼被告人塚本次郎の検察官に対する各供述調書
一 被告会社代表者兼被告人塚本次郎の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 渡邉敏己、笠原雄一、塚本一孝及び池田賢二の検察官に対する各供述調書
一 渡邉敏己、笠原雄一、塚本一孝、栗田国男、杉山守、池田賢二、河西基晴及び田中重男の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書
一 大蔵事務官作成の昭和六三年五月一八日付け各証明書
一 大蔵事務官作成の各査察官調査書
一 静岡地方法務局登記官作成の各登記簿謄本
(法令の適用)
第一被告会社
一 罰条
法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項
第二被告人塚本次郎
一 罰条
法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
懲役刑
三 刑の執行猶予
刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、被告会社の代表取締役である被告人塚本次郎が、被告会社について、仕入れ原紙の値引きなどにより多額の利益が見込まれたため、得意先からの自社製品の値下げ要求を牽制し、将来の不況に備えるなどのため、法人税の一部の支払を免れようとして、売上げ除外、仕入れの水増し計上、期末たな卸除外をしたほか、架空給与手当及び架空福利厚生費の各計上などの不正手段を弄して過小の確定申告をし、合計四九二一万一七〇〇円をほ脱したという事案である。ほ脱した税額が大きく、一部の利益を接待交際費としてひそかに利用し、また、長期に渡ってほ脱を繰り返していた事情も窺われ、その刑責が軽いとはいえない。
しかしながら、本件不正申告の方法は比較的単純なものもあって、いわば利益の先送りとも評価しうるものもあること、被告会社は本件につき修正申告を済ませており、修正分のほか、延滞税、重加算税も納付済みであること、被告会社の青色申告の承認が取り消されており、被告人塚本次郎は二度と不正な税申告をしない旨誓っていること、その他同被告人が高齢であり、業務上過失傷害で罰金刑を受けたほか前科がないことなど、被告人らに有利に斟酌すべき事情もあるから、これらの諸点を考慮して主文のとおり量刑した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 高梨雅夫)